町の中央に聳え立つ時計塔は、この町の住人たちにとってただの時間を告げる物件ではなかった。この塔には、世代を超えて語り継がれる伝説がある。それは「真夜中に塔の下に立ち、心から何かを望むと、その望みが叶う」というものだった。この伝説は、古くから町の子供たちの間で囁かれ、多くの者が挑戦したと言われていたが、本当に叶ったのかは誰も知らない。
祥平は、大学2年生。彼は、春から交際を始めた彼女・美沙との思い出作りに心を砕いていた。明日は、美沙の誕生日。彼女の喜ぶ顔を思い浮かべながら、特別なサプライズを計画していた。しかし、学生の身としてはお金も時間も限られている。そんな中で、彼は時計塔の伝説を友人・優から聞かされる。
初めは半信半疑の祥平だったが、優の真剣な眼差しと、何となくの期待感に押されて、真夜中の時計塔へ向かうことを決意する。夜の町を抜け、冷たい風に身を包まれながら、彼は時計塔の下へと足を運び、「美沙と過ごす最高の一日を」と心から願った。
翌朝、祥平が目を開けると、彼の周りは何もかもが止まっていた。部屋の時計は静かに、外の鳥も空中でピタリと止まっている。時間が完全に止まっていたのだ。彼は時計塔の伝説の真実を肌で感じる。
時間が止まったこの特別な日、祥平は美沙を手に取り、2人だけの秘密の時間を堪能する。映画館では好きな映画を何度もリピートし、高級レストランでは、ゆっくりと美味しい料理を味わった。そして、公園のベンチで、長い時間をかけてお互いの夢や未来について語り合った。
しかし、夜が近づくとともに、祥平の胸に不安が芽生えてくる。このまま時間が進まないとしたら、未来はどうなるのか。再び時計塔の下に立ち、彼は「時間を元に戻して」と願う。そして、神秘的な光が彼を包み込むように、時間が再び動き出した。
美沙は祥平の手を強く握りしめ、「今日は本当に特別だった」と笑顔で感謝の言葉を伝えた。その日、祥平は何よりも大切なことを学んだ。それは、特別な瞬間や思い出は外部の力に頼らずとも、2人の心の中で真摯に願えば、それだけで最も美しい時間が作れるということだった。